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人生のログ(にしたい)。本のメモや感想を中心に。

『高校数学でわかる流体力学』感想

流体力学とは、非平衡熱力学の本を立ち読みしたときにチラッと名前が出てきたりとか、移動論での何かの式の根拠にちょっと名前が出てきたとか、そういう程度のお付き合いしかなかった。上の分野も専門とはずれるから、流体力学は名前だけ聞いたことのある親戚の親戚くらいの距離感だった。
講義あるいは聞きかじりでも、全く内容を聞いたことのない分野の理工書は読んだことがないなーと思い、そういう本を読むための練習がてら年末年始の暇つぶしに買って読んだ。

この本の目標は、1.飛行機が流体力学の効果とくにベルヌーイの定理によって飛ぶことを納得すること、2.できれば1のために二次元翼理論まで辿り着くこと、3.ナビエ・ストークスの定理まで辿り着くこと、かな。
全体的には、最後の章以外は非圧縮性で粘性のない場合について。基本的には一次元ないし二次元の場合の式に関しては導出することが多く、式展開も丁寧に書いてある。シリーズ恒例の人物紹介は初顔が多いせいか多分使い回ししてない(?)
あらすじは、
一章はベルヌーイの定理を定性的に説明。気体分子運動論を援用して流体に関してのイメージ作り。
二章は重要な3つの式を提示する。連続の式(質量保存則の流体力学版)、オイラーの方程式(運動方程式流体力学版)、ストークスの定理の3つ。
三章でオイラーの方程式からベルヌーイの定理(圧力のエネルギーを含んだエネルギー保存則)を導く。ベルヌーイの定理の応用例としてベンチュリ管、トリチェリの定理、ピトー管を挙げている。
四章では速度ポテンシャルと流れ関数を導入。
五章では実部に速度ポテンシャル、虚部に流れ関数をもった複素速度ポテンシャルの話。一様な流れ、湧き出しと吸い込み、二重湧き出し、円形の循環の複素速度ポテンシャルを提示してそれがどういう流線を作るかという話。
六章は円のまわりの複素速度ポテンシャルの話。それが五章での一様な流れと二重湧き出しおよび円形の循環との組み合わせで作ることができて、すると円に働く揚力と抗力が導けるよ、という。ここでクッタ・ジューコフスキーの定理(揚力が流体の密度、一様な流れの定数、循環の積で与えられる)が登場。
七章ではブラジウスの第一第二公式を導出し、再びクッタ・ジューコフスキーの定理を導いている。
八章が二次元翼理論の話で、ジューコフスキー変換により、円を翼の形に変換できるので六章の結果を利用できるという話。
九章はナビエ・ストークス方程式の提示。粘性の話と、粘性力をオイラーの方程式の外力として取り入れることで導いている。最後に層流と乱流の話に触れて終わり。
1→2→3→4→5→6(→7)→8
    3→9
のような構成かしら。

このシリーズ全般に言えるような気がするけど、記述が分かりやすいのでなく、一次元の場合とか、特別簡単な例に関して丁寧に式を導出するだけ(あるいはしたあとにより一般的な式を置くこと)で何となく納得させているような気もする。でも導入にはやはり丁度よさそう。


数学は、複素数での微分が形式的には実数と変わらないとか、複素関数の正則性を除けば(説明はある)、たしかにまあ高校数学の範囲かなあ、という感じ。

ちゃんとした流体力学の本を読むとなるとベクトル解析も複素関数論も抜けきってるし、しんどそうなどと思ったりした。