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人生のログ(にしたい)。本のメモや感想を中心に。

『ディファレンス・エンジン』

 

ディファレンス・エンジン〈上〉 (ハヤカワ文庫SF)

ディファレンス・エンジン〈上〉 (ハヤカワ文庫SF)

 

 

 

ディファレンス・エンジン〈下〉 (ハヤカワ文庫SF)

ディファレンス・エンジン〈下〉 (ハヤカワ文庫SF)

 

 

7/25〜7/29

ついに読んでしまったというのが正直な一番の感想。

前評判として知っていたことはチャールズ・バベッジの「解析機関」が完成し、身の回りの製品が蒸気機関で動く一見スチームパンク風で舞台が19世紀中頃のロンドンの歴史改変SFということと、すげえ読みにくいらしいことくらいだった。

ただ文脈としては、「解説」を『The Indifference Engine』で読んでいたりタイトルが如何にもな『Self-Reference ENGINE』を読んでいたり『屍者の帝国』がこれの影響を受けているだとかの話を聞いていたのでずっと読みたいと思っていた。

 

読みにくさの話をすると、原因が三つほどあって、描写が淡々としていて事態を把握しにくいことがまず一つ。章の初めと終わりにその章における所謂主人公とは別の視点での記述が挿入されることがもう一つ。もう一つは歴史や登場人物への知識がある程度求められることだと思う。森有礼も名前は見たことがあってもどんな人かは知らなかったし、テキサス革命って何すかレベルなのでその点少し苦しかった。マルクスらの扱いにしても造詣がもう少しでもあると笑えたのだと思う。

個人的には科学史的な話題は少し知っていたので苦労が軽減された気がする(斉一説だとか激変説だとか)。フランシス・ゴルトンの優生学が流行っていただとか、その辺のくだりを知っていると統計学のちょっとした扱いも面白い。あとはもうカオスだとかシステムだとかの話が出てきていることも。

ガジェットに突っ込むのも先に進んだ世界という前提に突っ込むのも野暮なのだけれど、いかにこの時代にプログラミングができたり数値計算ができたりする機関があって、原理的には可能だとしても、計算速度がべらぼうに遅いだろうしサイズも大きくなるわけで、それほどソフトや理論面で先に行けるのだろうか、とは思ったりもした。

とはいえ歴史改変SFとしての醍醐味をある程度捨てることになるのだろうけど、(フィクションにおける)そういう登場人物や出来事だと思えば元ネタへの予備知識はどうとでもなると思う。読みにくさとして挙げた点が重要だったりするから言いにくいけれど、とにかく読んで欲しい。面白いから。

あとは章立てやある単語でSelf-Reference ENGINE』を思い出したり、『屍者の帝国』との取り上げられる登場人物やガジェットを対比をしたりすると、その辺でも面白く読めると思う。