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人生のログ(にしたい)。本のメモや感想を中心に。

『ウォール街の物理学者』『金融の世界史: バブルと戦争と株式市場』

年末に読んだ2冊なのでまとめて書く。どちらも面白かった。 

ウォール街の物理学者 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

ウォール街の物理学者 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

 

「この本は、金融の世界に飛び込んでいった物理学者たちの物語だ。二〇〇八年の金融危機のこともでてくるけれど、それは話の一部にすぎない。(中略)でも僕が書きたいのは、もっと大きなテーマだ。クオンツというものがどうやって生まれてきたのか、そして現代の金融理論に欠かせないものとなった「難解な数理モデル」 とはいったい何なのか、それを理解する試みだ。」 

……と、概ねイントロダクションに書いてある通りの内容。中盤くらいまでは著名な物理学者・数学者・情報科学者(ポアンカレ、ギブス、マンデルブロ、シャノンなどなど)が(指導教官であったり共同研究者であったりあるいは当事者として)これでもかと出てきて取っ付き易いというかお前か!となる。ブラック・ショールズ方程式で有名なブラックも自然言語処理に貢献していたとか、ソネットとかいう何でもやるマンとか、何というかすごい人はすごいなあ、みたいな。

確かに、クオンツというものがどうやって生まれてきたのかについてはよく分かった。「難解な数理モデル」とはいったい何なのかは結局良くわからず仕舞ではあるが、ランダムウォーク・モデルは1900年のバシュリエの博士論文まで遡るというか、(その後約50年間日の光を見なかったとはいえ)かなり古いものだということを知れてよかった。

 

金融の世界史: バブルと戦争と株式市場 (新潮選書)

金融の世界史: バブルと戦争と株式市場 (新潮選書)

 

金融の世界史というか、お金(広義)にまつわる世界の話が色々と書いてあるという印象。メソポタミア文明が如何に先進的であったかや、世界各地で今で言うオプション取引がどれだけ古くからあったのか、有名な戦争や革命の時期での各国の経済状況がどうであったのかなどが書いてあり、興味深く読めた。

ただ古代〜中世〜近代くらいまでは面白かったものの、比較的現代の話では酒田五法をはじめ明確に根拠があるわけでもないテクニカル分析(笑)に紙面が多く割かれているのはあまり面白くなかった。

 

モデルから出発する場合はランダムウォーク・モデルのような単純なモデルはあくまで出発点であり、実際のデータとの解離具合から適宜修正する必要があるというのは実際そうだし、前述の本にも書いてあるし、修正されたモデルも実際色々とある(らしい)。最近の大失敗は古い単純なモデルを頑なに使い続けたため、と前述の本にも書いてあるし、その辺りの経緯を考慮しないでモデルから出発するのはどうこう、というのは早計だと思う。モデルから出発するからこそ、現実のデータと対比したときに、どの仮定がどのように現実的でないかが明らかになるわけで。

人間はランダムかそれに近いようなデータ列を見ても勝手に法則性のようなものを見出してしまうので、モデルではなく実際のデータから規則性を抽出することから出発する場合は尚更実際のデータとの一致性が求められる(と思う)し、それに基づく予測が外れたときに説明のしようがなくなりかねない(と思う)。とりわけそれを人間がやってしまう場合はどれだけバイアスがかかるかもを考えると色々通り越して恐ろしい。

2016 12/20追記

何か久々に読んだら意味分からんことが書いてあったので打消。一致性とかバイアスとかいう単語を使うと統計の文脈に思われかねないのでだめだな。こういう場合は予測誤差が小さいモデルがよかろうと思われるので統計でいうところのバイアスはあってもいいです。何でも直線、何でもガウシアン、こんな感じで線を引ける気がする、とかはよくないです。