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人生のログ(にしたい)。本のメモや感想を中心に。

『新しい量子化学(上)』感想

理工書は、可能な限りいちいち式展開を自分で追って演習問題が付いていれば解くというのをやると捗る。

B2の終わりころに買った『新しい量子化学(上)』をちゃんと読んだ。具体的な計算の話に入ってからは飛ばし気味だったけれど。
上巻は三章からなる。一章が線形代数とちょっとした数学、二章がHartree-Fock法とそれを超えた近似(CI法や第二量子化)の概観と準備。三章が一番重要な章でHartree-Fock法について。Hartree-Fock方程式を導出し、それを実際に解くに当たってRoothaan方程式を導出して制限閉殻系の実際の計算を行い、その問題点を上げ、非制限閉殻系のPople-Nesbet方程式を導出、同様に数値計算してそこで残る問題も後の章で電子相関を取り込むと改善されるんですよ〜といったところで終わり。量子化学というかHartree-Fock法の本。

問題意識としてHartree-Fock方程式って何ぞや。と思っていたのでそこをだいたい理解できたのでよかった。
スピン軌道から分子全体の波動関数を1個のSlater行列式で近似する。Slater行列式でBorn-Oppenheimer近似の元でのハミルトニアンを挟んで選んで得られるエネルギーが極小を取るようなスピン軌道の組を、スピン軌道が規格直交系である束縛条件のもとで、Lagrangeの未定係数法から求めるとHartree-Fock方程式が出てくる。でその未定係数が対角形になるようにユニタリ変換して正準Hartree-Fock方程式が得られると。この時点で非線形だから繰り返し法で解くしかないし、実際に解くにあたっては、 さらにスピン軌道を適当な基底関数系で行列表示にして云々。
Koopmansの定理(上の未定係数が固定近似をしたときにイオン化エネルギーや電子親和力としての意味を持つ)っていうのがそんなに重要なのか……?と思ったりした。

二電子積分の数がすぐに膨大な数になるから、基底関数の組は計算リソースを考慮して適切に選ばなければならないのが闇っぽい。その上CI法だと行列式の線形結合な上にその行列式の数が組み合わせの数でますます膨大になるしやばい。そりゃDFT主流になるわ。DFTよく知らないけど。あとは、アンモニア分子について計算するのにでもd軌道の対称性を持った基底関数を使わないといけないだとか書いてあって驚いた。
結晶だと原子数的には膨大な数になるけど結晶の並進対称性を考慮すると案外楽に計算できるのかしらん。それでタンパク質なんかの巨大分子や周期性のない固体あたりが鬼門なのかな。

水素分子を例にしたり、練習問題は読むのを停滞させない程度だけれど理解に役立つし、解答が載ってる問題もあったり、化学者の直感に訴えるような解釈の仕方がたまに書いてあったりして良心的な本。良心的といえば、2章と3章で後の章のための準備で章全体の流れからちょっとだけ枝分かれしてるのだけど、そこはあまり好きじゃない。

 下で多体理論として本格的なところに入るっぽい(第二量子化とか)し、"これらの結果が後の章で電子相関の効果を取り込むことで改善される"だとか散見されたので読んでみたいけれども迷う。 揃えたいとは思うけど次にこの手ので読むならDFTの本だよなーみたいなところが。